京都地方裁判所 昭和47年(ワ)41号 判決 1973年6月20日
主文
被告らは各自原告に対し、金二七三万四四八〇円及びこれに対する昭和四七年二月五日(ただし被告河本は同年同月四日)から右完済に至るまで、年六分の割合による金員を支払え。
原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、被告らの負担とする。
この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
(原告)
被告らは各自原告に対し金四三〇万円及びこれに対する昭和四七年二月五日(ただし被告河本は同四日)以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決及び仮執行の宣言
(被告李)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
との判決及び仮執行免脱の宣言
(被告河本)
原告の請求を棄却する。
第二 当事者の主張事実
(請求原因)
一 原告は、住宅電気設備機器の設置販売等を業とするものであるところ、昭和四五年五月一二日、被告河本から同被告が請負つた被告李方の家屋冷暖房設備工事を代金四三〇万円で更に請負い、被告李は被告河本が原告に対し負担する請負代金債務を連帯保証した。
二 原告は、昭和四五年一一月中旬頃までには、右冷暖房設備工事のうち、配管、放熱器等の設置工事を済ませ、ボイラーとチラーの据付工事を残すだけとなつたので、これらの器具を用意して右冷暖房設備工事を完成させようとしたところ、被告李はボイラーとチラーを据付けることになつていた地下室の防水工事が出来ていないという理由により、その設置を拒み、その後も、原告の再三の請求にもかかわらず右防水工事をせず原告の工事の進捗をはばむので、原告は、右冷暖房設備工事を完成させることができない。
三 よつて、原告は被告に対し、連帯して、右請負代金四三〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四七年二月五日(ただし被告河本は同四日)から右完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。
(認否)
一 被告李
原告が住宅電気設備機器の設置販売等を業とするものであることは不知、その余の事実は否認する。被告李は、昭和四五年五月初旬、被告河本に対し本件冷暖房設備工事を請負わせようとしていたが、細目まで協議が整わず契約を締結しないうちに、被告河本は、右設備工事を原告に下請させたものである。
二 被告河本
原告が住宅電気設備機器の設置販売等を業とするものであること、原告、被告河本間で原告主張の請負契約を締結したこと、原告が昭和四五年一一月中旬までに、原告主張の程度の冷暖房設備工事を施行したことは認める。
(抗弁)
原告と被告河本間に冷暖房設備工事の請負契約が成立し、被告李が連帯保証をしたとしても、右工事は配管の接続、クーリングタワーの設置が未了で完成しておらず、被告河本の請負代金の支払義務は、原告の右設備工事を完成させる義務と同時履行の関係にあるから、原告が右義務を履行するまで被告らは債務の履行を拒絶する。
第三 証拠(省略)
理由
一 原告と被告河本間においては成立に争いがなく、原告と被告李間においては被告河本本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一及び第六号証、成立に争いのない甲第二ないし第四号証、乙第一号証、証人吉岡宏晃の証言(後記採用しない部分を除く。)、原告会社代表者並びに被告河本各本人尋問の結果を総合すれば、
1 被告河本は、昭和四五年五月初旬頃、被告李の夫である訴外吉岡宏晃から当時新築中であつた被告李所有家屋の冷暖房設備工事を依頼され、被告李との間で右工事に関する請負契約を締結したこと。
2 被告河本は、従来規模の大きい工事を請負つた場合には、自らこれを施行することなく他とさらに請負契約を結んで工事を完成させ、自らは仲介料を得て利益を挙げていたところから、本件の場合においても、被告李から請負つた冷暖房工事を、右吉岡宏晃の同意を得たうえで住宅電気設備機器の設置販売等を業とする原告に請負わせることとし、昭和四五年五月一二日原告との間に代金四三〇万円、工事完成時現金払の約旨で請負契約を締結し、被告李は被告河本が負担すべき債務を原告に対し連帯保証したこと。
3 原告は、昭和四五年一一月中旬頃右冷暖房設備工事のうち、ボイラーとチラーの据付工事を残すだけとなつたので、右残存工事に必要な器材を用意して右冷暖房設備工事を完成させようとしたところ、被告李は、ボイラーとチラーを据付けることになつていた地下室に水漏りがしているので、その防水工事が済んでから右据付工事を施行するように原告に要請したこと。
4 その後被告李は、原告および被告河本の再三にわたる請求にもかかわらず、右防水工事を施さずボイラーとチラーの据付工事を拒んでいるため、原告は右冷暖房設備工事を完成させることができず、もはや工事の完成は不能と目されること
がそれぞれ認められ、右認定に反する証人吉岡宏晃の証言は採用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
ところで、本件のように、第一次的請負人である被告河本は自らは工事を施行せず第二次的請負人である原告においてこれを施行するという契約関係においては、請負工事が実質的発註者たる被告李の責に帰すべき事由によつて履行しえなくなつた場合、被告河本はそれが自らの直接的帰責事由ではないにしても、第一次的請負人として、第二次的請負人たる原告に対しその責に任ずべきものと解するのが相当であり、このように解する以上、前記認定事実関係のもとにおいては、被告河本は原告に対し請負代金の支払義務を負うものと言うべく、従つてまた被告李は連帯保証人として原告に対し、保証債務の支払義務を負うものと言わざるを得ない。
二 次に被告らは、配管の接続、クーリングタワーの設置が未了であるとして、いわゆる同時履行の抗弁を主張するところ、この主張は民法第五三六条二項に依拠するものと解しうるのでこの点について按ずるに、本件請負工事において原告がボイラーとチラーの据付をしていないことは原告の自認するところであり、原告と被告河本間においては成立に争いなく、原告と被告李間においては被告河本本人尋問の結果により成立の真正を認める甲第七号証、右本人尋問の結果並びに原告会社代表者本人尋問の結果によれば、本件請負契約にもとづき原告がなした工事の出来高は、金二七三万四四八〇円相当であると認められるので、請負金額中それを超える部分は、原告が債務を免れたことによつて得た利益というべく、しかるときはこれを差引けば、被告らにおいて原告に対し支払義務ある範囲は前記請負代金中金二七三万四四八〇円に限られるものといわなければならない。
三 以上の次第で原告の被告らに対する本件請求は金二七三万四四八〇円及びこれに対する昭和四七年二月五日(被告河本は同月四日)以降完済にいたるまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分についてその理由があるからこれを認容し、その余の部分を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条仮執行の宣言につき、同法第一九六条(仮執行免脱の宣言は付さない)を適用して、主文のとおり判決する。